全てが噛み合わない

036

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杜王グランドホテルの一室。 ディオとジョナサンのことは知らないと答えた後、ホル・ホースはライターを取り出し、黙りこくってその蓋を開け閉めしている。 (さて、どう出るか……) 彼は目の前の穏やかな表情をしている男、『自称・ジョースター』を時折見遣り、名簿を開きながら思案していた。 (こいつがジョースターじゃねえって事がわかった以上もう承太郎達との交渉の道具としては期待できねえ) 名簿には確かに『ジョージ・ジョースター1世』と名前が載っている。 (しかしそれはこいつが本物だという証拠にはならねえ……簡単に他人の名を名乗れるってことだからな) もし放送で『ジョージ・ジョースター1世』の名が流れればこの男はいい面の皮だろう。 (まあ、それはこっちも同じことだがね……) 「ポルナレフ君」 唐突に、ホル・ホースと同じく名簿に眼を通していたジョージが声を掛ける。 「な……なんだい?」 いきなり話しかけられた驚きで声を濁しながらも答えるホル・ホース。 「いま少し考えていたんだが、君は教会でバッグを拒否した男の事を知っているかね?」 (ディッ……DIOの野郎のことじゃねえかーーーッ!この野郎俺にカマかけてやがんのか!?) ホル・ホースの顔が俄かに引きつる。 この男の目的は分からないが、自分の名前を偽った後ゲームに参加している別の人物の名前を『探している』として出したのは確かだ。 もしその二つの名前が適当に名簿から選んだものだとすれば、それは自分の名前の偽りが露見するリスクの倍増を意味する。 そんなリスクを犯してまで余計な名前を出す筈がない……それはつまり。 (この男がジョナサン・ジョースターとDIOを探してるってのは確かだぜ!) 「君も名前を聞いてないのかね?私は離れた場所にいてよく声が聞こえなかったんだ。危険人物のようだからもし君が名前を聞いていたり  あの男と面識があるなら情報を知っておきたかったんだが……今のままでは成人男性だということしか分からんのでね」 返事が帰ってこないのを気にしたのか、ジョージは自分で続ける。 (いまここで『知っている』と答えたら不味いぜ……こいつがDIOの父親だと自分を偽っている以上、俺がDIOを知っていると言えば  年齢の関係で偽名に感づいているとバレて間違いなく戦うことになる……利用どころの話じゃねえ……だがびびらねえ!  逆にカマかけてやるぜチクショーッ!) 「いや、俺も遠くにいたんでよく聞こえなかったなァ〜〜〜。確か名乗ってた名前はディ……ディなんとか……」 「ディ……?ディオはまだ子供だし、賢い子だからそもそもあんな軽率な真似はしない……この『ディアボロ』という者だろうか?」 名簿を指しながら考え込むジョージ。 (早速やりやがったぜこの野郎〜〜〜!あんなガキがいるわきゃねえだろうが!とことん俺を騙す気か!?) 自分がDIOの事を知らないと思い白々と言うジョージを見ながら、心の中で地団駄を踏むホル・ホース。 (もしDIOを知らない人間だったら今のでDIOに対する認識を青い『安全』にしていただろう……だが俺はあの男を知っている!  あいつは真っ赤っ赤の『危険』だぜ〜〜〜ッ!何故親子なんて嘘をついたのか今わかったぜ) 「ポルナレフ君、本当に知り合いはいないのかね?」 すました(ホル・ホースにはそう見える)顔で聞くジョージを見て、更に熱くなるホル・ホース。 (……とっ、落ち着け落ち着け……ポーカーフェイスは大事だぜ) 「い、いやいねえな……それにしてもジョースターって名前が多いな。ジョセフやエリザベスって奴は親戚かい?」 落ち着いて更に質問を返そうとするホル・ホースだが、直後に―――――。 轟音が響いた。 遅れて振動。 「な……なんだ!?」 ホル・ホースがベランダに出て外を確認する。 「こっち側じゃねえみてえだ……ジョースターの旦那!見晴らしのいい屋上に上がりましょうぜ!」 「うむ……殺し合いを始めている者が既にいたか。悲しいことだ」 ジョージは狙撃銃に弾を込めると、先行して部屋を出た。 (……ってことは初対面の時のアレはハッタリか!?ビビっちまった自分が情けねーぜ) ホル・ホースは恥じらいを紛らわすために帽子の位置を直すと、慌てずジョージを追った。 「階段で屋上まで上がるのかい?」 「電気が止められている以上エレベーターは動かないだろうからね」 階段を上りながら話すホル・ホースとジョージ。 現在彼らは13階から14階に上がる階段を上っている。 「やっと14階か……屋上が何階にあるか調べとけばよかったぜ」 文句を垂らすホル・ホース。 ゴールも分からず変わり映えのしないコンクリートの蹴上げを登る作業を繰り返しているのだ、無理もない。 比較的広い踊り場に出て一息つく。 だが、ジョージは歩みを止めようとしない。 「おいおいジョースターさん、あんまり急ぐと心臓に悪いぜ」 年配のジョージを気遣う気持ちなどホル・ホースには微塵もないが、とりあえずそう声をかける。 「私の息子が危機に陥っているかもしれないのだ!この狙撃銃のスコープなら状況を把握できるはず……」 (ケッ、少なくともあんたの『息子』の片方は危機に陥るところなんて想像もできねえよ) ホル・ホースは辟易しながら階段を10段程登ったところでふと物音が聞こえたような気がして、14階に続く踊り場の入り口を見遣る。 「…………?」 妙な風体をした男が立っている……マスクを被り、全身にアルファベット?のような文字の書いた細い布を巻いている。 いや、これはホル・ホースの経験からすると……。 「スッ……スタンドかぁーーー!?」 瞬時に『皇帝』を発現させて発砲する。 「どうした!?ポルナレフ君」 ジョージが階段を駆け下りてくると同時に『スタンド』は銃弾をかわし、通路に引っ込む。 「いきなり発砲などして……相手はどこだね?」 隣に来たジョージは、辺りを見回す。 「そこの通路に引っ込んでいった……本体は姿を確認してないから近くにいるかは…」 そこまで言いかけて、ホル・ホースの心中にまたも疑惑が浮かんだ。 (まさか今のスタンド……こいつのか?) 「先に攻撃してしまったのか……いま誤解されて後で後ろから撃たれでもしたら困る。話し合いに行こう」 (……いや、それはないか?今俺と争ってもこいつには得はないはず……) 「どうしたね?銃をしまって付いてきたまえ」 堂々と、負い目を全く感じさせない声で言うジョージ。 「ああ、今行くぜ……」 『皇帝』をホルスターにしまい、歩き出すホル・ホースの眼は鋭い。 (どっちにせよ……戦うことになるだろうが、逃げるわけにはいかんぜ) この殺し合いの舞台……生き残るには強靭な精神力が要る。 DIOの前に縮こまった、自分の弱い精神のままではいけないのだ。 14階通路。 前にジョージ、後ろにホル・ホースの布陣で二人は進む。 「……いないな」 「まさか幻でも見たんじゃないかね?」 通路の一番奥まで見通して、誰もいないことを確認したジョージが言う。 「俺は確かに……部屋の中に逃げこんだのかもな」 ホル・ホースはジョージから注意を外さずに言ったその時、後ろの部屋……1405号室の扉が開いた。 咄嗟に振り向いた二人を意に介さず、『スタンド』は喋りだす。 「困ルナ……勘違イヲサレテハ……ワタシハ逃ゲテイタノデハナイ……」 「こッ……こいつだ!」 ホル・ホースは叫びながらジョージに眼をやる。 少しでもスタンドを動かしているような素振りを見せれば即座に撃ち殺せる状態だ。 (やはりこのスタンドはこいつのものじゃねえのか?とすると本体はどこに……出てきた部屋の中か?) 「デ……ドチラガ『ジョースター』ナノダ……?」 「!?」 「私だ。君の顔に見覚えはないが……先程は連れが無礼を働いてすまなかった。我々はこの殺し合いに乗ってはいない」 ジョージが落ち着いた声で答える。 (こんな猿芝居が通用すると思ってんのかーーーッ!?それにしてもコロコロ状況が変わりやがって頭がパンクしそうだぜッ!) ホル・ホースから見れば、この状況は自分の名前を偽っている男とそのスタンドが行っている芝居にしか見えない。 (だがよッ!この一言でその芝居も終わりだぜッ!) 「おいッあんさん!さっきは悪かったな!話し合いがしたいから本体を現しなァーーーッ!」 「……殺シ合イニ乗ッテイナイトハイカニモ『ジョースター』ノ血族ダナ」 「ッ!もしや君は私の息子……ジョナサンとディオにここに来てから会ったのか?それで私のことを……」 (無視かよッ!?) 華麗にスルーされたホル・ホースは心の中でツッコミを入れながら、沸々と怒りを燃やす。眼は憎たらしい『スタンド』に釘付けだ。 「……ディオ?」 「うむ、性こそブランドーだが、私の立派な息子だ」 (もう我慢できねえッ!これ以上芝居がやりてえなら……あの世でやりやがれテメーッ!) 本体を殺せばスタンドも消える。 (あんたを利用できないのは心苦しいが……狙撃銃だけでも十分だぜッ!) 『皇帝』を顕現させ、咄嗟に振り向いて引き金を引く。 「『1手』……遅かったな。素晴らしい反応だったが。君には用はない……命が惜しいなら消えなさい」 神父然とした男が言う。 「なっ!?」 発射された銃弾はついさっきまで目の前にいた『スタンド』に弾かれる。 その『スタンド』はジョージを羽交い絞めにしている。 そして音も立てずに開いていた1406号室のドアが、ジョージと『スタンド』、そして神父を中に入れた後、静かに閉まった。 「これは一体……!?」 残されたホル・ホースは、呆然と立ち尽くしていた。 1406号室。 『ホワイトスネイク』により気絶したジョージを見下ろしながらプッチ神父は考えている。 (首筋に星の痣があったことからこの男がジョースターの一族であることは間違いない……だがDIOが息子だと?) プッチはDIOから彼の出自―――吸血鬼であることすらも――――聞いていない。 故にDIOが幼少の頃ジョースター家の財産を奪う為暗躍したことも知らない。 疼く痣を押さえながらジョージの頭に手を伸ばし、ありえないことだが―――『手を頭に突っ込んだ』。 「『記憶』を見せてもらおうか。すぐに殺してもいいんだが……ン?スタンドのDISCがないな……まあいい……」 ベリベリと音を立てながら一枚のDISCが取り出される。 「どれ……」 プッチは自分の頭にDISCを挿入する。 立派な館にて。 机の上で二人の少年が勉強に励んでおり、鞭を持った男が片方の少年の手を叩く。 「ギャッ!!」 少年は悲鳴を上げ、バツの悪そうな表情をする。 「またまちがえたぞッ ジョジョ!」 「6度目だッ!同じ基本的なまちがいを6回もしたのだぞ!勉強がわからんというからわたしが見てやれば  何度教えてもわからんやつだ!」 もう一人の少年はすました顔で勉強を続けている。 「ディオを見ろッ!20問中20問正解だ!」 場所は変わって食卓。 ガツガツと品のない食べ方で先程怒られた少年が食事をとっている。 あまりに激しく食べるのでコップが倒れて中身が零れてしまった。 同じく先程鞭を持っていた男がテーブルを叩き、叱責の言葉を浴びせる。 「ジョジョおまえそれでも紳士か! 作法がなっとらんぞッ!作法が!」 そして脇に控えている召使に食器を下げろと命じる。 「えッ!」 ジョジョと呼ばれた少年は驚いて縋るような眼で男を見るが、男は容赦しない。 「もう食べんでよいッ!今晩は食事ぬきだッ!自分の部屋へ行きなさいッ!」 そしてディオと呼ばれた少年の方を向き、 「ディオが来てからおまえをあまやかしていたのを悟った!親として恥ずかしいッ!ディオを見習え!  ディオの作法は完璧だぞッ!」 ジョジョがディオの方を向くと、ディオはジョジョにしか聞こえない程度の声で言う。 「フン!マヌケが」 ジョジョが走り去る……――――――。 「てめえッジョースターの旦那に何しやがったッ!?」 「ハッ!?」 いきなり響いた怒声でプッチが現実に帰ると同時に彼の頭に蹴りが叩き込まれ、DISCが抜け落ちる。 「っとっとと、なんだこりゃ。CDか?何か中に見え……旦那と……おっと!動くんじゃねーぜ」 立ち上がりそうなプッチに『皇帝』を向けて牽制し、蹴りを放った張本人……ホル・ホースはジョースターに近づく。 「大丈夫かい旦那……気絶してやがる。おおっ!?」 手に持っていたDISCがジョージの頭に収まる。 「なるほど、これがあんさんのスタンドの能力かい……?」 プッチはホル・ホースを睨みつけ、唸るように呟く。 「余りにも意外な記憶を見つけ……魅入ってしまっていたため……君のようなチンケなスタンド使いの攻撃を受けてしまった……  この頭部の痛みはわたしの油断に対する戒めと受け取ろう。馬鹿だよ君は……逃げ出していれば命は助かったものを。  恐らくは今日始めて出会ったそこの男の為に命を懸けるのか?」 ホル・ホースは笑いながら返す。 「質問してるのはこっちだぜ神父さんよーーーッ?それにチンケなスタンドだぁ〜〜〜?『銃は剣よりも強し』って諺知らねえのか?  だが答えてやろう。俺はこいつの為に命を懸けてる気なんてさらさらない。命はたった一つだからなぁ〜〜〜!他人の為に使えるか!」 銃を油断なく向けながら言うホル・ホース。 「そう、命……魂は誰にでも一つ。例外はない。『天国』に向かう私以外の例外はな……だから不思議なのだ。何故わざわざ死にに来た?  君はいつでも殺せるが、なぜそんな行動をとったのか知りたいのだ」 プッチは不敵に言う。 「何、ちょっとあんたに聞きたいことがあってな。こいつ……気絶してるおっさんのことを何故ジョースターだとわかった?」 「ジョースターの一族は首筋に星の痣がある。そうだな……君には私の駒となってジョースターの一族を探してもらおうか。  記憶DISCを新たに創りだしてその命令を書き込んでから君に差し込めばその通りに動かせる。ただしスタンドのDISCは私がもらうがな」 ホル・ホースは合点がいったというような表情で言う。 「そういやDIOの野郎の首筋にも星の痣があったな……100年前のジョースターの、えーと、誰だったかな……誰かの肉体を奪ったとか」 プッチはホル・ホースがDIOの名を出したことに少し驚く。 「ほう……君はDIOの組織の一員かな?銃使いといえば狙撃手の男がいたが……しかし君は若いな。当時は何歳だったんだ?」 (狙撃手?当時?さっきからどうも話が噛み合わねえな……天国とか言い出すし……) ホル・ホースはこれ以上話しても有益な情報は得られないと考え、『皇帝』のトリガーに指を掛ける。 「あんたにゃ特に恨みはねえが……俺はあんたみてえに他人を利用し慣れてる奴は嫌いでね……(同属嫌悪って奴かな)  俺まで利用しようとするからな……ま、とりあえず死んでくれ。悪く思うなよ」 「いいぞ……撃って来い。その方がいかにも殉教者らしい。君はまだ殺さんがね……」 プッチが言い終わるか終わらないかの内に六連装のリボルバー銃、『皇帝』が火を噴く。 ドゴォン×6! 一定のリズムで銃弾が発射され、6発の弾丸がプッチに向かう。 「やはりこの程度か……先程見た通りのスピードだ」 『ホワイトスネイク』の像が現れ、次々と弾丸を掴みとる。 (早いッ!?思ったよりずっと早い……ここから踊り場まで遠隔操作してたからパワーやスピードは弱いと踏んでたんだがな……) 「疑問そうな顔をしているな?私のスタンドは遠隔操作型だが至近距離では100%のパワーとスピードを使える。君の望みももうないな」 4発目の弾丸を『ホワイトスネイク』が右手で掴み取る。 同時に5発目の弾丸を左手で掴み取る。 「いや大したもんだぜ……すげースピードだ。意外だったぜ実際」 『参った』というような表情で帽子を取り、拍手までするホル・ホース。 「……貴様、今弾を何発撃った?」 プッチが始めて焦ったような声を出す。 「6発だよ神父様。俺が撃った弾は6発だ」 直後、他の弾丸を眼晦ましにプッチの背後に回りこんでいた弾丸がプッチの脇腹を撃ち抜く。 「ぐはッ……!!」 地に膝をつくプッチ。 「スピードがいくら速くてもやっぱり最後は"ここ"の違いだったな……相手に能力を出来るだけ隠す……常識だぜ、神父さん」 「なめるな……よ……何故我が『ホワイトスネイク』が五発の弾丸を弾かずに掴んでいたと思う?それは踊り場で……あの踊り場だ……。  貴様が『スタンド』を発現させたあとに弾を込めずに撃ったのを見たからだ……つまりこの弾丸自体も貴様のスタンド!  理解したか?私の勝ちだッ!!!」 プッチは帽子を被り直したホル・ホースに高らかに勝利宣言を放つ。 「負け惜しみを……?」 ホル・ホースが一笑に付そうとした瞬間、彼の視界が何か円状の物で覆われる。 「こ、これは……?少しづつ俺の頭から抜け出てくるぞ……何だこれはッ!」 「それが貴様の『スタンドのDISC』だ」 ホル・ホースの視界が悪化したチャンスを逃さず、プッチは既に彼の目の前まで来ていた。 『ホワイトスネイク』が『皇帝』を押さえつける。 「もう私の手で軽く引っ張るだけで取り出せる程にユルユルだ……『スタンド』がなければ逆らう気も起きまい」 プッチがDISCに手を掛ける。 「正直今私は体調が万全じゃなくてね……君が手伝ってくれれば簡単にジョースターの一族を見つけられるかもしれない。  DIOを知っているなら彼も探してもらおうか。そこのジョースターの事も少し聞きたいし……ほんのちょっぴりだがね。  なにより『天国』に行く為に彼が力を貸してくれるだろう。では、これで……」 「神父様……私の懺悔を聞いてくださるでしょうか?」 「……何?」 突然改まった口調になるホル・ホースに戸惑うプッチ。 「私、さっきあなたにここに来た理由を聞かれて、『質問する為』と言いましたが、ありゃ嘘です。本当は―――」 瞬間、いままで背中の後ろに隠されていたホル・ホースの左腕が露わになる。 持っていたのは狙撃銃。すでに弾丸の装填が済んでいる―――! 「なッ……!?」 「――――――『これ』のためでさ!」 銃口がプッチに向けられる。 「何ィィィーーーッ!?『ホワイトスネイク』ーーーッ!!」 全速で『ホワイトスネイク』に防御行動をとらせるが、時既に遅し。 刹那の差で狙撃銃の弾丸がプッチの腰を貫き、その衝撃でプッチは吹っ飛び、ベランダのガラスを破って柵にぶつかる。 「がッ……はッァ……あ?……」 嗚咽しながらも痛みに耐え、プッチはホル・ホースを見遣る。 「無理な体勢で撃ったからか……肩が外れちまったぜ。だが、右腕があれば十分だ」 ホル・ホースはDISCを頭にしまい、『皇帝』を構えて悠々と近づいてくる。 「そのダメージで銃弾を全て受けきれるか?自在に動き回る銃弾をだ……無理だね。今度こそ、俺の勝ちさ」 「く……」 プッチは何とか立ち上がり、柵にもたれかかる。 「おいおい無理するなよ。キリストだって死ぬことで神の愛を明らかにしたんだぜ、神父なら大人しく……」 そして―――飛び降りた。 「おいッ!何を……自殺か!?」 ホル・ホースは柵に駆け寄り、下を覗き込む。 (これは自殺ではない……神は自殺をお許しにならない……2……私の支給品は鋼のワイヤー……3……長さは既に測っている。  落ち着け……素数を数えて落ち着くのだ。5……適切な場所で使わねば体が千切れかねん……7……一階分の長さを計算するのだ) 14階から地面に向かってダイブしながら、プッチ神父は冷静に思考していた。 (11 13 17 19 23 29 31……間もなく……37 41 43 47 53 59 61……ここだ!!『ホワイトスネイク』ッ!) 『ホワイトスネイク』がワイヤーを投擲する。6階の一室のベランダの柵に見事引っ掛けることに成功した。 (よし……うまくいった。下は駐車場か。車に激突しそうだな……地面よりはマシか?いや鉄だし……) ワイヤーが徐々に張っていき、プッチは地面に近づく。 (『ホワイトスネイク』よッ私を守れッ!) グモッチュイイーーンドガッ!!! 車に激突した。 「がげぇぁ……ッッッ!!!」 同時に全身が引き裂かれる程の衝撃が奔り、プッチは悶絶する。 (やはり……ワイヤーでブレーキをかけ、『ホワイトスネイク』でガードしたとは言え……きついな) あのままあの場にいれば死は確実だったとは言え、これでは結局同じだったかもしれない。 プッチは両手を広げ、十字架のようにも見える体勢をとっている。 (左の鼓膜が破れているようだ……右足は骨折しているな。あとは全身打撲……このくらいで済んでよかったと思う……べき……か?  なんだ……?目が霞むぞ……我が……『ホワイトスネイク』が消える……?『死』?私は……死ぬのか?血……が……駄目だ……  まだ……死ぬわけには……私の……全てのものの為の『天国』を……DIO……ジョースター……いかん、これではまるで走馬灯……  何故暗い?何も見えない……目を……開けなくては……) 目蓋を左腕の指でこじ開る。 (……開いたのにみえないだと?これが……こんなものが……私の……『死』なのか?いかん……駄目だ……暗い……意識が……何だ?) 完全な暗闇に包まれたプッチは、光が射すような感覚を覚えた。 近くで強く輝いているようで遠くで疎らに瞬いているようにも見え、明るく祝福するようにも優しく激励するようにも見える。 そんな名状しがたい性質の光が。 光に影が差し、少しづつ大きくなる。 (……人?あれは……) 疲弊しきったプッチの体が、軽く浮くような感傷に浸る。 (ペルラ……それに……ウェザー?) 「迎えに来てくれたのか」 プッチが呟く。声ではなく、しかしよく響く何かで。 (これが……『天国への階段(メイド・イン・ヘブン)』なのか……もしれない) 意識がさらに薄れる。薄れていく。 ペルラとウェザーの手が差し出される。 そして、プッチはその手を……――――――――――――その手を? ズガンッ! 金属と金属がぶつかりあい削れ合う音が右の、生きた鼓膜に鳴り響く。 (―――幻だったのか) 現実に引き戻されたプッチは空ろに上方を見上げる。視界はハッキリしている。 白みがかった空が見える。間もなく夜明けだろう。 そして、先程自分が飛び降りた14階のベランダに、狙撃銃を構えた男が小さく見える。 「一発で……一発で中ててくれていれば、全ては終われたものを」 だが、目が覚めた今、死を選ぶことはできない。 (『運命』……『なるようにならない力』……『必然』……それらを乗り越え、真の『天国への階段』へ到る為に) 車の上から転がり落ち、隣の車に乗り込む。 (鍵は差しっ放し……動くか?) エンジンをかけると、車は稼動した。 (燃料は……地図でみて覚えた病院までいけるかどうか微妙だな。とりあえずは……休もう) プッチは車を発進させた。 「ちっ、外したか……しかも逃げやがった。まだ息があるようだったから鼬の最後っ屁を危惧してとどめを差しときたかったんだが」 裏目に出たか、とホル・ホースは唾を吐く。 「こいつは起きやがらねえし……仕方ねえ、ここに一旦寝かせといて、俺だけで屋上に行くか」 ジョージが起きた時の為に、一人で屋上に行く旨を書いた置手紙を残し、明かりとしてライターを置いてホル・ホースは部屋を後にした。 わざわざベッドにジョージを運んでからである。 (全く手間のかかる相棒だぜ……だが構わねえ) 再び階段を上り始めるホル・ホースの顔は綻んでいた。 (最初の予定通り、承太郎達との交渉にも、DIOとの交渉にも使えるってわかったんだからな。戦力的には微妙だったが……) そして、屋上へと辿り着き、全視界に広がる空を見回す。 「勘違いしてて悪かったな……気を取り直して、じっくり利用させてもらうぜ、ジョースターさんよ」 【杜王グランドホテル(1406号室 and 屋上)・一日目 早朝】 【零代目ジョジョ(?)チーム】 【ジョージ・ジョースター1世】  [スタンド]:なし  [時間軸]: ジョナサン少年編終了時  [状態]:気絶  [装備]:なし  [道具]:支給品一式(狙撃銃の予備弾)、ライター  [思考]:1)出来る限り争いを阻止する      2)危険人物相手には実力行使もやむ得ない      3)荒木の打倒      4)ジョナサンとディオの保護 [補足]ホル・ホースの名前を『J・P・ポルナレフ』だと思っています 【ホル・ホース】  [スタンド]:『皇帝』  [時間軸]: エジプトでディオに報告した後  [状態]:左肩脱臼  [装備]:狙撃銃(フル装填)  [道具]:支給品一式  [思考]:1)出来るだけ戦わずにやり過ごしたい(でも覚悟はキメる、やる時はやるぜ)      2)利用できる味方を増やしたい      3)とにかく生き残りたい      4)ジョースター郷を利用し尽くす [補足]ジョースター卿の名前は信じましたが、DIOの父親ということはやっぱおかしいと思っています。    DIOから『ジョナサン・ジョースター』の名を『肉体を奪った相手』という情報と共に聞いていますが、今は忘れています。 【杜王グランドホテル駐車場前道路/1日目・早朝】 【エンリコ・プッチ】 [スタンド]:『ホワイトスネイク』 [時間軸]:刑務所から宇宙センターに向かう途中 [状態]:ホワイトスネイクの暴走状態:左耳鼓膜破裂、右足骨折、脇腹、腰に銃創(弾は抜けている)、全身打撲、出血多量 [装備]:燃料スカスカの車 [道具]:デイバッグ(鋼の太いワイヤー) [思考]:1)病院に行って隠れて治療しつつ休む     2)ジョースター家の抹殺     3)天国へ向かう     4)DIOに会う(ジョージの言っていたことについて質問する)

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