誇り高き血統
016
戻る「動くんじゃねぇ――!! 俺の間合いだ! チラッとでもスタンドを出して見やがれ、 その瞬間、問答無用でドタマをブチ抜くぜ!!」 と叫んでから思ったが、突然の遭遇とは言え、銃を向けて焦りまくりの三下台詞。 ハッキリ言って『格好悪い』ぜ。このホル・ホースにはもっとクールな態度が似合うって 言うのによ。 教会の出来事の後、なぜか俺はホテルの一室にいた。色々と考えるには絶好の場所かも 知れないが室内は真っ暗。窓から見える景色も同様だ。日本は停電が少ない国って聞いて いたが実際は大した事ねぇな。たぶん荒木とかいうヤツが電気を止めたんだろうが。 幸いポケットに入っていたライターで視界を確保したが、地図を広げるのも難儀な状態だ。 だから俺はさっさと部屋の外に出たって訳よ。外からライターの明かりを見つけられても いけねぇし、室内で襲われたら逃げ場がねぇからな。ちゃんと『警戒』はしてたんだぜ。 だが本当にドアを出た途端に狙撃銃を持ったオッサンに出くわすとは思わず、我ながら 『格好悪い台詞』を吐いちまった。チクショー、十数秒で良いから時間を巻き戻して クールにやり直してぇ。 目の前(5m程だが)にいるのは身なりの整った男だ。狙撃銃の銃口を向けてやがる。 咄嗟に銃を構えたって事は戦闘型のスタンドじゃないかもしねぇ。油断は出来ないが。 その向こうに半開きのドアが見えた。どうやら隣の部屋から出てきたらしい。オイオイ、 まさか各部屋に割り振ったんじゃねぇだろうな。旅行ツアーじゃねぇんだぞ。 「だからと言って君も無差別殺人などする気はないのだろう? 私も突然の事とは言え 君に銃口を向けてしまった。非礼を許して欲しい」 「勝手に決め付けて謝ってんじゃねぇ――!」 男は俺の三下台詞に対してスタンドを出すどころか、軽く会釈した上に銃口を下げや がった。争う意思がない事を示したつもりだろうがトンだ甘ちゃん野郎だ。それとも 実力に裏付けされた自信なのか。経験から言えば後者だ。不安がある奴ほど騒ぎ立てる ってもんよ。……ああ、不安だよ。悪かったな。 「ゲームに乗るという事は、自分以外の全員を敵にするという事だ。相手を殺せる優位な 状態でも警告したのは『相手次第では協力できる』と思っているからではないのかね?」 落ち着いた口ぶりで正論を吐きやがる。確かに俺は撃たなかった。もしコイツじゃなく DIOや条太郎だったら正面からじゃ勝負にならねぇからだ。教会に集まったスタンド使い 全員を一人で倒すなんざ不可能。半分が同士討ちをするとしてもジョースター達のように 徒党を組まなけりゃ対処すらできない。最終的に一人勝ちを狙うか荒木のスタンドから 逃げ出すかはともかく、生き残るには信頼できる仲間……利用できる仲間が必要だ。 俺は元々個人ではなくコンビを組んで真価を発揮するタイプだしな。 「だからってテメーと協力するかは別問題だと思わねぇか?!」 「ではどうする? 出会う者全てに引き金を引くというのならば、私は君を止めねば ならない。なぜなら私には守るべき息子達がいる。そして荒木という者の非道も見過ごす わけにはいかない。力の差があろうと無かろうと『そんな事』は問題ではないのだ。 大切なのは強い意思、己の正義に対する『誇り』。君は如何なる『誇り』を持ってその 引き金を引くのかね?」 説教臭い演説を聞いて俺が理解したのは、こいつが『化石みたいに古臭い正義感』の 持ち主だって事だ。『正直者は馬鹿を見る』って言葉を知らない人種はどこにでもいる。 こういうヤツは少なくとも『背中から撃つ』人種じゃない。『背中から撃たれる』人種だ。 俺は『皇帝』をクルクルと指で回して華麗にホルスターへ収めた。普通に消しても良いが、 格好良いって事は大事な事なんだ。 「分かったよ。勝算も無いのに孤軍奮闘するほど馬鹿じゃねぇ。手を組もうじゃねぇか。 俺の名はホル・ホース。俺の経験上、アンタは信用できそうなタイプだ」 利用し易そうなタイプとも言うがね。わざわざ目の前に敵を作る必要はない。さっさと 話をまとめて場所を変えたいって事もある。ウダウダしてたら別のドアから次のヤツが 出てくるかも知れねぇし、次も話の通じるとは限らねぇ。避けられるリスクは避けておく のがクールな大人ってヤツだ。こいつのスタンドは不明だが狙撃銃とのコンビだけでも 『皇帝』の戦闘力は跳ね上がるってもんよ。 「君の聡明な判断と『誇り』に感謝する。遅くなったが私はジョージ・ジョースターと いう者だ」 今、なんつった? 俺の聞き間違いか? 「ジョ、ジョースターだとぉ―――――!!!」 「そんなに驚かれるほど有名な家名ではないはずだがね」 ジョージ・ジョースターなんて初耳だが、外見からすれば3、40才。ジョセフの息子 あたりが相場か。よく見れば顔つきも似ていやがる。間違いない。もしかしたら条太郎の 親父の可能性すらある。もし戦っていたら俺は殺されていたかも知れねぇ。危なかったぜ。 そしてジョースターの関係者なら(たぶん)さっきの言葉に偽りは無いだろう。 それにDIOに差し出せばゴマもすれるし、条太郎達に遭遇したときでも交渉の道具になる。 上手く運べば奴らも味方に着けられる知れねぇ。ヘヘ、初っ端から運が向いてきたぜ。 日頃の行いが違うってヤツだな。 「どうかしたのかね? 驚いたり、笑ったり……」 「何でもねぇよ旦那。とりあえず立ち話もなんだから場所を変えようや」 「旦那……?」 【杜王グランドホテル(10階)・一日目 深夜】 【零代目ジョジョ(?)チーム】 【ジョージ・ジョースター1世】 [スタンド]:なし [時間軸]: ジョナサン少年編終了時 [状態]:健康 [装備]:狙撃銃 [道具]:支給品一式(狙撃銃の予備弾) [思考]:1)出来る限り争いを阻止する 2)危険人物相手には実力行使もやむ得ない 3)荒木の打倒 4)ジョナサンとディオの保護 【ホル・ホース】 [スタンド]:『皇帝』 [時間軸]: エジプトでディオに報告した後 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:支給品一式(ライター) [思考]:1)出来るだけ戦わずにやり過ごしたい 2)利用できる味方を増やしたい 3)とにかく生き残りたい
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