雲と 星と

031

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さて、状況を整理してみるか。 オレは、アナスイと一緒に徐倫達とプッチの野郎を追っていた。 まあ色々あって知らない爺さんのトラックに乗せてもらっていた。 そこでアナスイの奴が何か文句を言っていたな。 なんだったか。 何かを読みながら『何か』の不平を言っていたな。 まあ、聞き流していたが。 そこで気が付くとあの教会にいた。 で、あの男・・・なんといったか? アキラ・・・・・・いや、アラキか。 あいつがいきなり殺し合いをしろと言った。 あの爆死した小僧と炎のスタンド使いの事を考えると、オレは完全にアラキのスタンドの術中に嵌っているということか。 奴の事は最初、プッチの部下のスタンド使いかと思ったが、プッチの奴も居やがった。 と言う事は、プッチとは関係ないのか、あるいはプッチを裏切ったのか・・・ いや、考えるべき所はそこではないな。 見つかるかどうか判らなかったプッチが、この街のどこかにいると判っている。 これは・・・状況が悪化したのではなく好転したんじゃあないか? 以前よりプッチをぶちのめすチャンスは格段にあがったんじゃあないかと。 無論、他の敵のスタンド使い達もいるだろうが、そいつらはプッチの敵でもあるのだ。 ただ、徐倫達がいるのが気がかりだ。 最後に生き残った者のみが元の世界に帰れると言う事は、いずれは徐倫達と殺し合いをしなければならないのか? それに、あのFF。 FFは死んだはずだ。 では、あのFFはアラキが作り出した偽者か? そう考えると他の全員も偽者かもしれない。 いや、自分すらも・・・・・・・そんな事を考えているとキリが無いな。 まあ会ってから考えるとしよう。 さて、いつまでもこんな所に突っ立ってはいられないな。 ここはどうやら住宅街の様だが・・・アメリカではないな。 多分日本だろう。 だが異様なほど静かで暗い。 街灯すら点いていない。 デイパックの中に明りになる物があるかもしれない。 中を見てみると、懐中電灯があった。 用意がいいじゃないか。 他には何が入っているんだ? パン、飲み物、それとこの街の地図か?後は、鉛筆、紙、時計・・・・・・ん?これは参加者リストか。 多分全員分だろうな。 空条徐倫、エルメェス・コステロ、ナルシソ・アナスイ。そしてフーファイターズ。 やはりFFか? 後は・・・・! 「空条承太郎?!こいつはッ!」 徐倫の父親か!だとしたら、会って見たいものだな。あの徐倫の父親に。 いや、現在の状況を考えると、会いたくないと考えるべきか? ん?オレの名前がどこにも無いな。 各リストには自分の名前が書かれていないのか? あるいは、《 オ レ の 本 名 が 載 っ て い る 》のか。 だとしたら、アラキはオレの事を知っているだろうか? これは確かめてみる必要があるな・・・・・・・おや? もう一枚紙がある。 持ち上げてみると、紙に挟まれていた物が地面に落ちた。 「これは・・・鍵か?」 そう呟きながらウェザーは鍵を拾い上げた。 「何の鍵だ?・・・ん?紙の方に何か書いてあるな」 ウェザーは鍵を握ったまま紙を開いた。 そこには一言、こう書いてあった。  『ロードローラーだッ!』 「やれやれだぜ」 こっちはここ何時間も必死こいて姿を隠すように移動したってのに、ありゃあなんだ? 信じられねーぜ。 いや、目の前にある現実が信じられねーんじゃねぇ。 住宅街の、しかもど真ん中をだ。ロードローラーにちょこんと座って移動しようって神経が信じられねえ。 あんなに音を立ててちゃ、狙ってくださいといわんばかりじゃねえか。 しかも、ロードローラーって所が何故か知らんがムカつくぜ。 さて、奴はなんでロードローラーに乗っているのか、そこが問題だな。 状況を理解していないのか、戦いを避け、他の連中と対話するためワザと目立っているのか。 そう考えるのは楽観しすぎだぜ。 実際はどうあれ、先制攻撃を受けても勝つ自信がある能力を持っていると考えるべきだ。 だが、まあこっちから先制攻撃を仕掛けて後味の悪い物を残すのは嫌だぜ。 取り合えず、話しかけてみるか。 ウェザーは、日本の民家の駐車場にロードローラーがあるのを見て驚いた。 日本人は家庭用ロードローラーを持っているのか!と最初は思ったが、この異常事態で直ぐに結論を出すべきではないと考え直した。 鍵はロードローラーの物で間違いなかった。 どうしようかと迷ったが、折角用意されているので乗って行く事にした。 だが、案外運転が難しい。 既に電柱を一本押し倒し、人の家の塀を3mに渡って潰してしまった。 やっぱり降りて歩こうか?そう思った矢先、突然声を掛けられた。 「そこのちょいとムカつく乗り物に乗ってるてめぇ。止まりな」 突然の事に素早くあたりを伺うウェザー。 空は薄らと明るくなりつつあるが、姿は見えない。 声も、自分より前方のどこかに居るということしか判らない。 「誰だ?どこにいる」 「そんな事はてめーには関係ねぇぜ。それよりてめーに二つ聞きたい事がある」 「何だ?」 「てめーはこの殺し合いについて何か知っているか?」 「お前はどうなんだ?」 「質問に質問で返すと失礼だっておふくろから習わなかったのか?」 だがこのゲームについては何も知らないようだな。 と言う事は、境遇的にはオレと似ているって訳か。と承太郎は思った。 「次の質問を行くぜ。てめーはDIOを知っているか?」 「ディオ?なんだ?バイクの名前か?」 「・・・・・・どうやらその顔じゃあ惚けてるって訳じゃあなさそうだな」 顔?オレの顔が見える位置に居るのか?ウェザーはあたりを注意深く見渡した。 家、電柱、マンホール。家の窓や塀の隙間も注視したが、特に不審な物は見えなかった。 おかしい、この暗さでオレの顔が見えると言う事は、かなり近くに居ないといけないはずだ。 ウェザーはそう考え、ロードローラーから跳び下り、前方に神経を集中させた。 オレの事を探しているな。と承太郎は思った。 だが見つかる筈はねぇ。 お前にはオレは見えね。いや、見えているのに見えねぇんだぜ。 承太郎は、ウェザーが居る場所から30mほど離れた民家の庭にいた。 塀の後ろに隠れている承太郎の姿は相手からは見えない。 承太郎の視線の先には、一本の街灯があった。だが承太郎は街灯のさらに先を見ていた。 街灯の中に映っている、ウェザーの姿を。 スタープラチナの超視力以外では、街灯に何かが映り込んでいる事さえ確認できないだろう。 「もうてめーに用はねぇ」 承太郎が口を開いた。 「だがてめーと戦う気もねぇ。だからオレは消えるとするぜ」 「だめだな」 「何だと?どういうことだ?」 「お前が、オレを倒す気は無いと言った所で、信用できる訳が無い。  いや、逆にオレを油断させて背後から襲う可能性もある。  その可能性を考えると、オレはお前が襲ってくるかもしれないと身構えたまま、ここを動けなくなる」 「言っている理屈はわかるがな。そんなこたァオレには関係ねー」 「だから、一度オレの前に姿を現してから、オレに見える様にこの場を立ち去るんだ」 「やれやれ、それこそ無理ってもんだぜ」 「いや。お前は嫌でもオレの前に姿を現す事に成る」 何だ?!ずっと見ていたが奴はスタンドは出していない筈だ! 遠隔操作型でオレを探すなら、スタンドが見えないとおかしいぜ。 だとすると、奴のハッタリか?どちらにしろ、長居は無用だな。 承太郎が場所を移動しようとデイパックを肩に掛け、ウェザーに背を向けた時、どこからか、サーという音が聞こえてきた。 何の音だ?と思った瞬間、正に自分が向かおうとした方向から、巨大な白いカーテンが、かなりのスピードで近づいている事に気付いた。 あれは・・・・・・ スタープラチナの視力が、そのカーテンの正体を捉えた。 雹か?雹が降っているのか?!まさか、雹を降らせるのが奴のスタンド能力!何だかやばそうだぜ。 ま、取り合えず当たらねぇ様に軒下に移るとするか。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まさかとは思うが、天気を悪くして足止めしようって魂胆じゃあないだろうな。 「知っているか」 承太郎の考えに呼応するように、ウェザーが口を開いた。 「史上最も大きな雹は日本で降ったバレーボール大の物だそうだ・・・」 何だと?今何と言った?そう承太郎が思った瞬間、雹の降るサーという音と共に、地響きの様な音が聞こえてきた。  ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ その地響きに混じり、ガラスや瓦が割れる音が聞こえる。 ま、まさか信じられねーぜ!まるで米軍がベトナムでやった絨毯爆撃の様に、特大の雹のカーテンがこっちに向かって来やがるッ!! 来るかッ!! 「スタープラチナ・ザ・ワールドッ!!時は止まる!!」 駄目だ!空中に止まった小さい雹に当たるせいで動きが鈍る! 奴のいる半径10mほどは雹は降っていないようだな。 しかたねぇ、見えない位置で奴の方へ出来るだけ近づく、そして時を止めるのが限界に達した瞬間奴の方へ走る! 時間切れだ。そして時は動き出す。 『オラァッ』ボゴォーン 塀をぶち破り、承太郎はウェザーの方へ走り出した。 「やはり、オレの前に姿を現したな。そしてお前のスタンドは近距離パワー型か」 やれやれ、近距離パワー型と判った途端雹の爆撃の速度を速めたな。 思ったとおりだぜ。これだけの雹を降らせるスタンドだ、逆にパワーは弱いんだろう。 さて、普通に走りゃあこの絨毯爆撃からは逃れられねぇわけだが、相手を攻撃するだけがパワー型スタンドじゃあないぜ! 『オラァッ!』 「何!?地面を殴って飛んだだと!」 やれやれ、ロードローラーの前でなんてマヌケな驚き方だ。 帽子からしてさしずめ、大玉の前のピエロに見えるぜ。 跳躍した承太郎が、ウェザーの目の前まで迫った。 そして、とどめだ! 『オラァーッ!』ガンッ! スタンドとスタンドの拳がぶつかり合あった音が、辺りに響き渡った。 「バ、バカなッ!これ程の能力を持ちながら、近距離パワー型だとッ!!」 「油断したな。油断すると言う事は、自分の命を軽んずるということだ。そして喰らえ!」 シュンッ! ウェザーリポートがパンチを放つ。 『オラッ!』ガンッ! スタープラチナそのパンチを弾いた。 「最初は能力とパワーに驚いたが、やれやれスピードはオレの方が上のようだな」 シュンッシュンッ!! ウェザーリポートがさらにパンチを放つ 『オラオラオラオラッ!』 スタープラチナがそれを簡単に弾く。 「そんな攻撃じゃあ・・・何ィイイ!」 本体がいねぇ!どこだ?! ロ、ロードローラーの後ろへ回り込んでいるだと!!!? 「なんて奴だ、これだけの能力、これだけのパワーを持ちながら、射程が4、いや5mもあるとはッ!」 「そういうお前の射程は、2mほどか」 ロードローラーの後ろから、ウェザーが言う。 だが、奴は何故態々これだけ離れたのか?承太郎は考えた。 ・・・ハッ!まさか! そう思った刹那、雹の絨毯爆撃再開された。 『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』 「また、軽んじたな。自分の命を。その状態いつまでもつだろうか?」 確かに3s程もある雹と、敵スタンドを同時に弾くのは辛いぜ。長くは持たないだろう。 だがな! 『スタープラチナ・ザ・ワールド!』 時は止まった! 「やれやれ、普通の相手にこの方法を取ると心が痛みそうだが、てめーはこの手を使っても心が痛まないぐらい、スゲェ奴だったぜ」 だが、今度こそ止めだッ! 『オラーーッ!』ボゴォッ! ウェザーのスタンドの腹に、風穴が開いた。 やれやれ、これで終わりか。 そして時は動き出す。 「おまえ、まさか時を止められるというのか?!・・・危険だな」 次の瞬間、ウェザーは後ろには吹っ飛ばず、腹に風穴も空かず、スタンドも消えなかった。 「なんだとぉぉぉ!」 バカな!?こいつもしやじじいと同じ非フィードバック型スタンド!クソまずいぜ! ウェザーを倒したと思い、空から降ってくる雹の方だけに集中しようと体勢を変えた承太郎に、容赦なく左ストレートが迫った。 クソッ!だがこのぐらいならまだ防いでやるぜ! 『オラッ!』ガンッ! ギリギリの所でスタープラチナが弾いた。 だが、同時に、承太郎にはウェザーの本当の狙いが判った。 ウェザーリポートの右手が、真っ直ぐに承太郎の首、即ち爆弾を狙っていた。 畜生ッ!最初からこれが狙いかッ!こうなりゃ多少雹に当たった方が、頭と体がさよならするよりマシだ! 『オラーッ』 間一髪スタープラチナの肘が、ウェザーリポートの右腕を弾き上げた。 その刹那、ウェザーリポートの指先が閃き、イナズマが放たれた。 何てこった、こいつは雹を降らせるんじゃあなく、天候を再現するスタン―――― 承太郎の思考が巡る前に、イナズマが頭を直撃した。 承太郎はその場に倒れた。 倒れた承太郎を、雹が次々に殴りつけた。 先ほどまで戦っていた相手は、今では雹に埋め尽くされていた。 雹の下から染み出る血が、砕けた雹をあたかもルビーの様に美しく魅せている。 「死んだか?」 ウェザーが呟いた。 瞬間的に一億ボルトの電撃を頭に喰らったのだ。屍生人でも無ければ生き残れる筈が無い。 しかし、時を止める無敵のスタンドとは・・・・・・徐倫から少し聞いた事がある。 まさか・・・こいつが空条承太郎だったのか? それにしては、こいつは徐倫と同年代に見えた。 同タイプのスタンド能力と言うだけか? 一応、身分証が無いか探してみようか? ウェザーは承太郎だった物に近づいた。 しかし、3m程まで近づいたところで足を止めた。 いや、今更調べても遅いだろう。 白か黒かハッキリさせるより、グレーである方がいい。 万が一こいつが徐倫の父親だったとしたら、言い訳のし様が無い。 それよりも、徐倫達が心配だ。 こいつの様な危険なスタンド使いが他にどれだけいるのだろうか? ハッキリ言って、徐倫の性格はブッ飛んでいるが、スタンド能力は弱い。 早く見つけて合流せねば。 ・・・・・・途中で他のスタンド使いにあったら、念のため空条承太郎かどうか聞いてみるか。 もし、違ったら、容赦はしない。 どうせ知り合いじゃあないんだ。殺しても心は痛まないだろう。 そういえば、FFも本物かもしれないんだ、雨を降らせてやるか。 そう考えながら、踵を返し、ウェザーはその場を立ち去り始めた。 ズボォッ 妙な音がした。 何だ? 視線を落とした。 自分の胸から、何かが飛び出している。 それは指だった。 二本の長い指が、背中からウェザーの心臓を貫いていた。 「バカな」 ズッ 指が抜かれた。 ウェザーがその場に崩れ落ちる。 倒れながら、ウェザーは何とか後ろを振り返った。 そこには、積もった雹の中に、顔の左半分が焦げた承太郎が、血だらけに成りながら立っていた。 何故生きている?何故これ程射程がある? 最後の疑問の答えがでないまま、ウェザーの意識は永遠の闇に落ちていった。 「やれやれだぜ・・・・」 承太郎は何とかそう呟いた。 全身傷だらけで、あちらこちらから血がにじみ出ている。 左前腕と左足も折れている。 息が辛いと言う事は、肋骨も折れている様だ。 そして、左目が白濁していた。 電撃の熱で煮えてしまったのだろう。 では何故オレは助かった? 雹の攻撃から自分を守ったのは、デイパックだった。 肩に掛けていたデイパックが、倒れた拍子に頭に被さって雹から保護したのだ。 では、電撃からは何故生還出来たのか。 承太郎は帽子を脱いで、残った右目で眺めた。 バッジが溶けている。 こいつが・・・・・・こいつと襟の鎖がオレを守ってくれたのか。 金属がアースの役割をして、電撃の脳への直撃を防いでくれたのだ。 やれやれ、オレの帽子と服装にケチをつけた威張るだけの能無し教師に、渇を入れておいて大正解だったぜ。 承太郎はウェザーの死体を眺めた。 てめーの敗因はたった一つ・・・・・シンプルな答えだ。 『てめーは最後に油断した』 そして、オレもこれだけ高い授業料を払ったんだ。 一つ学んだ事があるぜ。 そう考えつつ、承太郎は足を引きずりながら歩き出した。 次に知らねぇ奴に出会ったら・・・ 「誰であろうとぶっ殺す・・・」 【住宅街(E−05)/1日目/黎明】 【空条承太郎】 [スタンド]:『スタープラチナ』 [状態]:左前腕・左足・肋骨を骨折。全身に打撲と擦り傷。左目を失明。顔の左側に広範囲の火傷      非常に殺気立っている。 [装備]:なし [道具]:支給品一式 [思考・状況] 1:身を潜めて傷の治療をしたい          2:仲間といち早く合流したい          3:知らない奴が近づいてきたら誰であろうと殺す          4:やれやれヘビィだぜ 【ウェザー・リポート(本名:ウェス・ブルーマリン)】 [スタンド]:ウェザーリポート [時間軸]:ボヘミアンラプソディの攻撃が開始された直後 [状態]:心臓を貫かれた事による心停止 [装備]:ロードローラー [道具]:支給品 [状況] :死亡 *ロードローラーとウェザーの支給品がE−05区に放置されました

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