『誰が為に砂は舞う』

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 整っていて、妖しくて、飽きはちょっぴり感じても、決して嫌いにはならない ……そんな景観が杜王町の”ウリ”なのだが今は毛ほども気にならない。 商店街付近の住宅の合間を縫いながら一人の少年が汗水垂らして駆け抜けている。 呼吸は、限界の汽笛を吹いているように聞こえ、 当たる風は、体を引き止めているように感じ、 商店街に並ぶ店は、まるでベルトコンベアーで後ろに運ばれているように見える。 ゴールまで、あとわずか。 少年の名前は広瀬康一。 目指す場所は杜王町匂当台2――――――――――コンビニ「オーソン」 「は…早く!ゲホッ!…鈴美さんに知らせないと!!」 杉本鈴美と殺人鬼の存在を仗助達に伝えたあの後、確かに康一はそのまま帰宅したはずなのだ。 ところがどうだ。 気がつけば教会にいて、何やら一騒動。オマケに外はすっかり夜になっていた。 今把握できる事といえば「重ちー」の死と、 全く歳を取っていないかのような雰囲気を醸していた不気味な男の存在。 康一は考える。 頭の中で何度も繰り返される知人の死。夏の納涼花火のように首から上が吹っ飛ぶ死に様。 どうみても人間業ではない。あえてこれを説明できるとするならば……スタンド攻撃。 『スタンド使いはスタンド使いにひかれあう』by間田敏和 康一はつくづくこの言葉の深さを思い知らされる。 こちらの否応なしに付き纏い、巡り合う「宿命」。自分は間違いなくこの渦中にある。 ドーダコーダを言うつもりはない。むしろこんな事はしょっちゅうだ。 どんな危機が来ようとも、みんなで力を合わせればきっと何とかなる。そう信じている。 (でも承太郎さんはちょっと苦手だなぁ。何考えているかわかんないトコがあるんだよなぁ〜) そして康一はとても興奮しているのだ。 なぜなら突然自分達の目の前に現れ、殺し合いをしろと煽った人物。 ―――――荒木飛呂彦こそ自分達が探し求めていた殺人鬼なのかもしれないのだから!! (15年間もこの町で隠れて生きていたクセに・・・) *  *  *   ふわぁ〜あ。 はぁ…メンドクセェな。 その、なんだ、アレだ。 おれは元々あれこれ欲は出さねぇ性分なんだよ。え?コーヒーガム? ………ワリィ。さっきのは少し嘘だったな。いいじゃねぇか。いちいち気にするほどのモンじゃねーだろ。大体な、おれは平和主義者なんだよ。 気ままにちょっとゼイタクして、いい女と恋をして、なんのトラブルもねえ一生をおくりたいだけだ。 これでも血統書付きなんだぜ? たまーにオイシイ思いさえ出来ればいいんだよ。 DIOを倒す任務の為にジョースターの奴等にエジプトまで連れて来られたが、どうって事はねぇ。 その気になったら逃げる用意は出来てるしな。 ところでよ、おれはしばらくカイロの広場で眠っていたハズなんだが…何か場所が変わってねーか? というよりここホントにエジプトなのか? あの看板英語だよな。(「おーそん」って読むのか?) お、誰かきたな……。 「ハァ、ハァ、ハァ、……着いたぁ。あ〜体が熱っついなぁ…汗でぐしょぐしょだよ。 よいしょ……グビッ、ぷはぁ〜……れ、鈴美さーん!!」 (……なんだガキか) 「だめだ。『振り返ってはいけない道』が塞がってる。聞こえないのかなぁ。あれ?犬?」 (犬で悪いかよ) 「君、どうしたの?ひとりぼっち?首輪があるね。ご主人は?」 (知らねーよ。元気じゃねーの?) ―――――言うまでもなくイギーのつけている首輪はこの『ゲーム』で着けられた悪魔の首輪である。 本来、この会場には杉本鈴美はおろか、参加者以外の住民はいない。 それ故に普通は即、イギーも参加者である事に気づくはずなのである。 しかし康一は脇目も振らず、オーソンに向かって来てしまったのだ。 彼が教会から飛ばされて最初に考えた事は家族、友人と合流する事であった。 その結果最も近い場所が、このオーソンだったのである。 つまり、人けの無さを気にはするものの、この町の現状をあまりよくわかっていないのである。 イギー自身はというと、最初教会で集められていた時はほぼ爆睡していた為、てんで知るハズがない。 そもそも何が起こっているかさえも知らないのだ。 「そうだ!ね、アーノルドっていう犬に会った事はない?犬の幽霊なんだけど、ぼく達の仲間なんだ。 杉本鈴美という女の人といつも一緒にいるんだけど」 (犬のオレが人間の言葉を話せるワケねえっつーのッ!第一幽霊が見えるわけねえだろ!) 「やっぱダメかなぁ。……アレ?なんでここにバッグが?」 (バッグ?ああこれか。なんだこりゃ) 「ど、どうしてここにバッグが!?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・・・・・・・   康一が恐れるこのバッグというのは、ゲームの参加者全員に配られているディバッグの事である。 しかしこのバッグには開けられた形跡が全くない。まるで最初からここにあったかのように。 バッグの持ち主はどこにいったのか。いや、なぜこの犬の側にあったのか。 康一以外の参加者だったらこう考えるであろう。この犬もまさか参加者なのか、と。 「大丈夫だよ犬君」 イギーは少年に呆れの眼差しを向ける。一体何が大丈夫なのか。 いちいちツッコむ気すら起こらないので、しばらく様子を見る事にした。 何かを確信した康一がいきなりイギーに覆いかぶさり、抱き上げる。 その後も目線は常にイギー以外に向けて警戒を怠らない。 が、イギーもかつてはNYの野良犬の帝王である。犬としてのプライドにすっかり火がついてしまった。 チビっ子に、ましてや少々電波の入った野郎に抱っこしてもらう程、安い体ではない。 (おい!気安くおれを抱いてんじゃねぇ!!『愚者《ザ・フール》』!) トォッジョオォォォォォォ〜〜ッ!! イギーと同じく獣型のスタンドである『愚者《ザ・フール》』が現れ、飛び掛る。 決して相手を傷つけるわけではない絶妙なパンチでのお仕置き。 拳は標的を捉えている。が、 「ボヨン」 ――――広瀬康一、びくともせず。 (まさかッ!有り得ねぇ!?おい『愚者《ザ・フール》』!砂でこのガキを封じ込めろォォォォォォ!) 『愚者《ザ・フール》』の能力である「砂化」でもう一度少年に挑む。 まるで布のようになりながら、砂のラッピングで上半身をオメカシしようとする。  康一は、砂に巻き込まれないようにする為か、両手でイギーを高々と上げる事しかしない。 まさにダメ押しでは決して太刀打ちできないこの能力こそ『愚者《ザ・フール》』の真骨頂。 (どーだ電波野郎。低脳にゃあこれがお似合いだぜ) ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド・・・・・・・・・・・・ 「この砂……自在に動いているけど……それ以外は普通の砂と…何も変わらないぞ。 よかった。さっきあれだけ走っていなかったら……水を飲んだり ……汗だくのあまり『シャツ』と体がべったりくっついたせいで『ボタン』を外すことなんてしなかったと思うし。 ……はずかしかったけど『上着』を脱いで腰にしばるなんて事もしていなかった。服の中に砂が入ってたら危なかったなぁ〜 犬君、ちょっと我慢してね。 ―――――『エコーズACT2』!!!」 合図の叫び声と同時に康一を中心に四方八方に突風が吹き出す。 同時に『愚者《ザ・フール》』の砂も全て散ってしまった。 イギー自身も空中を飛んでいる。まるで打ち上げ花火ように、はるか康一の頭上を。 イギーは目を疑った。康一の体全体に『ビュゥゥゥ』という文字が書かれているのだ。 そう、康一は自分の体に『風の音』を加えたのだ。 最初の一撃の時も、殴られそうになった箇所に『ボヨン』という『ゴムの跳ね返り音』をはりつけ、 痛みをやわらげたのである。 まんまと音に翻弄されて唖然とするイギーをキャッチしながら少年は笑顔で答える。 「もう大丈夫だよ。ケガはない?ぼくはちょっと砂で擦り切れちゃった」 (このガキがスタンド使い!?こんな電波におれは一杯食わされたのかよ!?) 「もういいです。隠れていないで出て来てください。この『バッグ」はあなたの物なんでしょう!?」 (コイツ……今何て言った!?誰が……なんだって!?) 「ブハァッ!!ペッペッ!……オイ!テメェ何してくれるんだァ―――――!!!」 *  *  *   姿を現した人物はなんと女性であった。 シンプルな髪型にシンプルな服装。そしてそれらに見合ったシンプルな思考の持ち主。 かなりご立腹のようで、脂汗と罵声を噴出している。 「さっきからずっとコッチを覗いていたのはわかってます。自分が何をしているか、わかってい」 「それはコッチのセリフだァーーーーッ!砂なんかブッかけてんじゃねェーーーーーーーーーーーーッ!」 「(自分のスタンドのくせに)あなたが『本体』なんだから自業自得ですよ。」 (あの砂はおれのスタンドだっつの……まさかコイツ勘違いしてんのか?) 「どこが自業自得なんだよォ。この体の『水分』が吸いとられちまったらどーすんだッ!!」 「そんな事で無くなるわけがありません」 「勝手に決め付けてんじゃねぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 (電波少年の次は電波女かよ。おれはつくづくツイてねぇな……) 意味のない言いあいはちっとも終わりそうにない。 流石の康一も、うんざりであった。 自分で自分の首を絞めたのを棚上げにして逆ギレ。 バッグと犬をおとりつかっておびきよせる作戦も滑稽極まりなく、オマケに自分から姿を表わす。 正にオマケならぬマヌケである。 「テメェ……今すぐ『減った分』の水をよこすんだ」 「水?水ってこのバッグに入っていた水の事ですかッ!?」 「そうだ。今スグ水をよこすんだ。そうすれば何もしない」 「あ…アナタに渡す義理なんてありませんよッ!」 「…………」 (おいガキ!こいつ……なんかヤベェぞッ!) ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………… 女は自分のひとさし指に全精力を注いでいきながら 「オメーがオレの『水分』を取るってんならよォ……」 「な……なんなんですか」 自分の『分身』を飛ばす準備をするために構えをとる 「オレもオメーに『ブチ込んで』奪ってやるゼッ!!!」 「えッ!?」 その姿はまるで―――――西部を守るみんなのヒーロー……保安官のように 「テ    キ    ト―   に   よォォォォォォォォォォォォォオォォォ!!!!!!!!!!!!!」 「こ、これはッ!?」 解き放つ。 「『F・F弾』ンンンンンンンンンンッ!!」 「!?うわああああああああああああああああああああああああああ………………」 *  *  *   ペロペロペロ ぺロぺロペロペロ ……ガブッ 「痛ッ!」 (よーやく目覚めやがったかこの電波!ったく俺が砂嵐で姿をくらませて、『愚者《ザ・フール》』ここまで運んでいなかったらオダブツだったってのによ) 「ここは……。そうか、君が助けてくれたんだね。ありがとう犬君。」 (ハン!あのままだったら抱かれていた俺にも弾が当たっちまうだろーがッ! 馬鹿力でおれの体を締め付けやがって) 「敵は荒木飛呂彦だけじゃなかった。こんな大事な事に気付かないなんてッ! これからどうしよう。またアイツに遭遇したら僕は勝てるのだろうか。この、僕、なんかに。 鈴美さん、仗助君、億泰君、露伴先生……!」 (厄介な事になってきちまったな。ホントはおれ一人で逃げてきても良かったんだが……。 ――ね、君、アーノルドっていう犬に会った事はない?犬の幽霊なんだけど、ぼく達の仲間なんだ―― ――大丈夫だよ犬君―― ――もう大丈夫だよ。ケガはない?―― やれやれ。犬好きの子供は見殺しには……できねーぜ。 『エコー』ズ……音〔サウンド〕のスタンド使いか。砂〔サンド〕と響きが似てるっちゃ似てるな せいぜい……よろしくな) 誇り高き犬に見初められた少年、広瀬康一。 彼自身も知らない秘められた潜在能力は「この杜王町」では開花するのであろうか。 第三のチカラは眠り続ける。 いずれやって来るであろう日まで、 ――――――――――――――『恐怖』を『克服』するその日まで。 *  *  *   「いなくなっている……スデニ。マジでどこに行ったんだ?」 一方、F・Fは未だコンビニ「オーソン」の前で自分の目の前に現れた一人と一匹を 探し続けているのであった。 「徐倫達も探さなきゃならないし……メンドクセェ〜〜〜」 F・Fはぼやきながら、ぽつんと取り残されたディバッグを拾い上げる。 「でも『水』が手に入っただけ『良し』とするかァ〜。ラッキー♪結果的に増量したぜ!グビグビグビ」 【振り返ってはいけない道付近・杉本鈴美のオーソン(F-04)・1日目 深夜〜黎明】 【F・F】 [スタンド]:フー・ファイターズ [時間軸]:さよならを言う『アタシ』になる寸前 [状態]:落ち着き始めている [装備]: F・F弾 [道具]: 支給品一式(F・Fのバッグ)詳細不明。      支給品一式(イギーのバッグ)詳細不明。←正し水半分消費 [思考・状況]  1)ンまぁ〜いッ!!  2)徐倫達を探す。  3)水の確保できる場所を見つける。 【チーム・S(OU/A)ND〔サウアンド〕】 【靴のムカデ屋店内(F-04)・1日目 深夜〜黎明】 【広瀬康一】 [スタンド]:エコーズACT1&2 [時間軸]:杉本鈴美の事を初めて仗助達に話した日の後(吉良VS「重ちー」より前) [状態]:恐怖。軽度の疲労、上半身に擦り傷。 [装備]: なし [道具]: 支給品一式、シャボン液。(ボトルの水は半分消費) [思考・状況]  1)みんなで脱出したいけど、もし敵(荒木、F・F)に遭遇したら、ダメかもしれない。  2)急いで自宅に戻って家族に会いに行き、同時に仗助達も探す。  3)犬君(イギー)への恩返しとして飼い主を探す。 イギーが参加者であるという事を知らない。 【イギー】 [スタンド]: 『愚者《ザ・フール》』 [時間軸]: エジプト入り、ペット・ショップ戦より前 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]: なし [思考・状況]  1)康一を守る。  2)康一の誤解をいつ解くか考えあぐねている。  3)後で電波女(F・F)を痛い目にあわせる。 ※イギー、康一は虹村形兆VSタルカスのカーチェイスを知りません。 (カーチェイスが通り過ぎた後にムカデ屋に入った為です) ※康一はこの杜王町の状況をよく把握していません。参加者以外にも住民はいると考えています。 ※イギーはバトルロワイヤルの開催すら気づいていません。

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