トンネルを抜けると
019
戻るさっきから手の甲をつねったり、頬をひっぱたいたり、 コンクリートの壁――ここはトンネルみたい――へ、これでもかと頭を打ち付けもしたのに。 「夢なら覚めてよッ!」 仮に『ホワイトスネイク』の幻覚だとしても、 このブッ飛んだ状況で矛盾を見つけるなというほうがどうかしてる。 頭痛くなってきた。なんだ、今になってコンクリ頭突きが効いて来た? いや、落ち着けあたし。まずは座れ、座って落ち着け。 そしてそのままゆっくり息を吐きながら壁にもたれて、しばらく風に吹かれなさい。 静か。明かりがなくて視覚が閉ざされている分、余計にそう感じる。 さて、こんなクソゲームに乗る気はさらさらないけれど、デイバックくらい検めておくべきだわ。 ……今使ってる懐中電灯、マズソーなパンがいくつかとペットボトルの飲料水、 開催場所の地図、安っぽそうな鉛筆に紙、方位磁石と時計……『自動式拳銃』。 「支給品……」 拳銃にくっついていた3文字だけのメモの内容だ。 これにしたって教会でのことからして威嚇程度だと思っておいたほうがいいはず。気が重くなる。 弾を込めようともう一度バッグを覗き込んで、一番底にあったものに初めて気付く。 取り上げ見ると、どうもゲームの参加者名簿らしい。なんとなしに文字を目で追っていく……え? まさか、どうして?! この名前はッ! 『空条承太郎』!! (エルメェスにジョンガリ・Aもいるけど) 確かに心臓は止まっていたはずよッ! あのナントカ言う主催者が蘇らせたの!? ……ともかく方針は決まった。あいつに会う。 断じて頼ってるって訳じゃあないけど、今はそれが必要に感じられるわ。 まずはここを出なきゃあ始まらない、ちょうど吹いて来る風へ逆らうように。あたしは歩き出した。 だけど、まさかこうも早く遭遇するとはね。薄い布切れがピラピラしているだけの服の女。 待ってたかのように出口で突っ立ってるってことは気付いていないわけでもあるまいに、 無防備にもこちらに背を向けている……そしてそれはあたしが銃を構えると同時だった。 「敵意はないわ。人探しをしたいの」 挙げたヤツの手からデイバックが落とされる。 正直あたしは面食らった。まさに台詞を取られたみたいだったから。 「あたしの名前はミドラー」 「ちょっと待てェ――!! 勝手に会話を進めてるんじゃあね――ッ!! 武器はないよーだが、スタンドはいるはずッ! 何をするつもりだッ!!」 『ストーン・フリー』を発現し、素早く辺りに目を走らせる! ハイプリエステス 「あたしの『女教皇』は遠距離型のスタンド。能力は鉱物に沿って隠れて移動すること。 面と向かっての戦闘は不得手だけど、人探しには向いている。 もう一度言うわ、あたしはミドラー。あなたは?」 「何、あたしに護衛でもさせようって腹……?」 デイバックとは反対側、ミドラーの横の地面から現れた『女教皇』に視線を移す。 完全に会話の主導権を握られた。銃を向けてるのはこっちだって言うのに、よ。 けどあたしとしたって戦闘は避けたい。話くらいは聞いてもいいかも知れない。 「……空条徐倫」 「そうよ、ジョリーン。あたしは『空条承太郎』を探しているの。あなたもそうでしょう?」 「嘘をつくなッ!」 名前を聞いたのはこのため……あたしを馬鹿にしてるのかッ?! 「いいえ。彼のことは知っている。『学生帽』、『ガクラン』、『スタープラチナ』。 スタンドごしに見させてもらったわ。ジョリーン、あなたの名簿を見て驚いている顔。 それとあまりゲームに乗り気じゃあなさそうだったわね。だから誘っているの」 何よ……あたしの父親といったいどーいう関係だって言うのよッ! この女! フフフ……作戦通り。 まあ、裏でちょっとばかし名が知られてるようなあたしにとって、 こんな小娘一人、言いくるめるなんてわけないことと言ったらそれまでなんだけど。 ヤツとの関係を聞かれたら、会えたら必ず話す、とでも言っておけば良いし、 後は『女教皇』でボロを出さなければ、バレる要素はないはずよ。 さーて、あとはどうやってあたしを『信頼』させるかね。 承太郎の――本人は娘だと言っていた。んなわけねーだろスッタコが――情報は、 予め貰っていたために交渉も格段にし易くなった。こりゃ日ごろの行ないの賜物ね。 ツイていたのは命拾いした小娘もそうなんだけどさ。 もしトンネルの反対に向かっていくようなら、こっちへ追い立ててから噛み砕く。 迷わずこちら側へ来るなら……手駒にして利用する。そう決めてのさ。 もっとも、これからの寿命が少しばかり延びるだけで、大した変わりはないんだけど。 なにはともあれ、仲良くやっていこうじゃあないのよ。ジョリーン。 「あ、角砂糖食べる?」 「……」 【二ツ杜トンネル付近/一日目/深夜】 【ドキッ! 女だらけの承太郎捜索隊】 【空条徐倫】 [スタンド]:『ストーン・フリー』 [時間軸]:『ホワイトスネイク』との初戦直後。エルメェスがスタンド使いだとは知らない。 [状態]:健常 [装備]:自動式拳銃(支給品) [道具]:道具一式 [思考・状況] 1.父親に会う。 2.ミドラーに気を許しすぎない。 【ミドラー】 [スタンド]:『女教皇(ハイプリエステス)』 [時間軸]:DIOに承太郎一行の暗殺依頼を受けた後。 [状態]:健常 [装備]:なし [道具]:道具一式、角砂糖(支給品) [思考・状況] 1.生き残る。 2.徐倫の信頼を得て、手駒として動かしやすくする。 そのためにはスタンドを彼女に明かした以上に使うことは極力避ける。 3.今のところはこれ以上徒党を組む必要性を感じていないが、好みのタイプである承太郎は別。
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