ドッピオ、兄貴に出会う

006

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ここは深夜の住宅街である。人気はもうない。 ―――否、"一人"いる。 その一人は物陰、民家の塀の内側にしゃがみこみ、膝を抱えて震えていた。 「なんなんだ……?ちくしょう、なんなんだよ〜〜」 青年だった。眼に覇気のない、特徴的な髪型の青年。 「なんでぼくはいつもこんな目にあうんだぁ〜〜!?くそ……」 青年は震えながらも悪態をつき、デイバッグを漁り始める。 「地図……杜王町?アジア圏かな?……コンパス……おっ、これは名簿、か?載ってる名前はあの教会にいた奴等のかな……」 黒い表紙の名簿を発見し、取り出す。 「写真はないな……ウィル・A・ツェペリ、ヴァニラ・アイス……」 名前を眼で追う。 「ギアッチョ……暗殺チームのあのギアッチョかな?ブチャラティたちに殺されたんじゃなかったっけ?……ブチャラティもいるぞ……」 青年の眼に異常が現れた。分かりやすく言えば―――目の色が変わっている、とでもいうのか。 「"ボス"の敵がこんなにたくさん……!チッ、こいつ等は全部始末しなくちゃ………あのアラキとかいう奴もだッ!   きっとボスの秘密を知ってるか狙ってるに違いない……ボスの名前もある!ボス!いるんですか!?」 辺りをキョロキョロ見渡す青年。眼の変質は加速する。 「とぉるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるうるるる………おっ!電話だ!どこからだ!?」 立ち上がり、通りに公衆電話を発見して走り始める。公衆電話は鳴ってはいない。 「ぶつッ!もしもし、はいドッピオです。はい、ボス。はい……かなりやばい状況ですよね?」 受話器を取ると青年……ドッピオは話し始める。その場に彼以外の人間がいれば、彼の声質が次第に変わっていくことに気づいただろう。 『ドッピオよ……この状況は"ピンチ"ではない……邪魔者を排除する為の"チャンス"…そう、過去に打ち勝つ試練なのだ……分かるな?』 ぎょろり、とドッピオの眼が回り、その口から不気味な声が発せられる。 『あのアラキとかいう男の事も気になるが……まずは現時点で私の正体を知る者を始末しなくてはならないッ!』 ドッピオ……いや、"ボス"は断言する。 「つまり……?」 ドッピオは慌てて名簿を捲り、一つの名前を見つける。 「リゾット・ネェロ!こいつはオレ達が殺したはず……生きてたってのか!?」 『分からん……だが問題はリゾットだけではない。ドッピオよ、J・P・ポルナレフという名前があるだろう?』 「はい……こいつは?」 名簿の名前を指で辿りながらドッピオが問う。 『数年前に殺したはずの男だ……憶えていないか?私の正体を知っているのだ、この男は!』 「………ああ!思い出しました。剣士のスタンドを使う奴ですね」 『そうだ。そして我が娘のトリッシュにブチャラティ達のチーム…こいつらは私の思いもしないことを知っているはずなのだ。  当然始末しなくてはいけない!しかし私の部下はセッコしかいないし、奴は手に余る…そもそも直接接触すれば正体を知られてしまう』 一拍置いて、ドッピオが話し出す。 「ボス……これからどうしますか?」 『無論私は大っぴらに出ていくわけにはいかない。数年前は現れなかったポルナレフの仲間の空条承太郎という男もいる様だしな。  ブチャラティたちや暗殺チームがいることから恐らくはこの名簿に載っている者は殆どスタンド使いだろう。  いちいち真っ向から挑むのは得策ではない。スタンド使いであることを隠し、標敵を見つけるまでは静かに動くのだ。  ドッピオ、お前が頼りなのだ……私は唯一お前だけを信頼しているのだよドッピオ…』 ゆっくりと、ドッピオの眼が元に戻っていく。 「はい…僕もそれが生きがいです」 言って受話器を置こうとした瞬間、またもドッピオの眼が変質した。 『待て!ドッピオ……後ろの通りの角を曲がって男がこちらに近づいている……知らない奴だ……振り向くな!』 慌てて後ろを確認しようとしたドッピオを一喝すると、ボスの声は続ける。 『公衆電話機の向こう側のガラスを見れば映っている……あちらは今気付いたようだな。丁度いい。ヤツを利用するのだドッピオ……』 今度こそ受話器を下ろすと、ドッピオは深呼吸してから自然に振り向く。 鉢合わせる。 (……男じゃない!近くで見ると女だッ!) 「よーあんた、電話してたの?終わった?変わってくれない?ちょっと確認したいことがあってさーー」 気さくに話しかけてくる女。 「あ………はい」 ドッピオは一歩引き、女を公衆電話の中に通す。 「なんだこりゃ……セントが使えねーのかこの電話はッ!?」 どこからか硬貨を出した女が叫び声をあげ、ドッピオの方を振り向く。 「おい、金換えてくれない?」 「ごめんなさい、僕も電話できなかったんです。お金なくて……」 「あーークソッ!小銭落ちてねーかな……ゲッ、電話線が切られてやがる」 しゃがみこんで床を漁くっていた女は立ち上がると、再びドッピオの方に振り向く。 「お互い常識をブッ飛び超える変なことに巻き込まれたけどよ、まあ頑張ろうぜ。人は殺すなよ。懲役長いからな」 「……」 ドッピオのお前が常識超えてるよなんだそのテンションはと言いたげな表情に気付かず、女はその場を去ろうとする。 (……あっ、利用しなきゃ) 「まっ待ってください!僕も連れて行ってくれませんか!?一人じゃ心細くて……」 怯えた声を出すドッピオ。 女は立ち止まり、顔だけ振り向いて言う。 「いいかあんた……これは殺し合いだぜ?他人を簡単に信用するんじゃねえ。無論あたしもあんたを信用してない」 「……確かにそうですけど、でもあなたは人を殺す気なんてないんでしょ?僕だってない……ここを脱出する為には、身を守るためには」 「仲間が必要、ね……」 女は呟くと体全体をドッピオに向ける。 (!スタンド……気付かないフリをしなければッ!リゾットの時はそれでミスったからな…) 女の側に顔、腕、腹部に唇の絵が描かれているシールが張られた、頭に複数の突起がある像が現れた。 女はドッピオをじっと見つめている。 「……あ、あの、何か?」 「……フン、スタンド能力は持ってねーみたいだな。ま……いいや。ついてきな。言っとくが信じたわけじゃねーぞ」 像は消え、女は歩き出す。 慌てて後を追うドッピオ。 (よかった……しかしこの女がどんなスタンドを使うのかは知っておきたいな……) そんなことを考えていると、いきなり女がデイバッグを投げつけてきた。 「誰かが襲ってきた時はあたしが相手してやるからよ、それ持っててくれ。落としたり中身探ったりしたら承知しねーぞ!」 「……はい」 ドッピオは少々、ボスと電話したい気分になりつつあった。 女は歩きながら顔を顰めていた。 後ろの男は足手まといになる恐れがあるが……最悪、囮くらいにはなるだろう。 それに怯えてるヤツを放っておくのも少し後味が悪い。 今からやるべきことの為に――――心に(罪悪感やら何やら)悪いものは残しておきたくない。 ――――――スポーツ・マックス。 (あたしはよ……おまえが本当に嫌いだが……ここでまた会えることには感謝するぜ……なんで生きてるのかはしらねえし、  興味もないが……またおまえにグロリアの恨みを思い知らせてやれるんだからな……誰にも殺させねえ、私が…いや) (グロリアが、おまえを再び殺すんだ) 女は懐に忍ばせたライフルを握り締め、歩き続ける。 (スタンド『キッス』でも死にきれねえなら……今度はおまけで鉛玉もブチ込んでやるぜ、ゾンビ野郎) 女はふと気付いたような表情をして振り向く。 「そうだ、あんた名前は?あたしはエルメェス、エルメェス・コステロだ。よろしく」 「ドッピオです……ドッピオ……僕の名前は、僕の名前はヴィネガー・ドッピオです」 【杜王町 広瀬康一の家付近(住宅街)/一日目/深夜】 【度を超えた性同一性障害と度を超えた超雌チーム】 【ディアボロ(ドッピオモード)】 [スタンド]:『キング・クリムゾン(エピタフ)』 [時間軸]: リゾットに勝利後、ローマに向かう途中 [状態]:ちょっと精神不安定気味 [装備]:なし [道具]:デイバッグ×2(エルメェスの支給品を持たされている。自分の支給アイテム未確認) [思考・状況]1:『ブチャラティ』『ジョルノ』『ナランチャ』『トリッシュ』『ポルナレフ』『リゾット』の殺害       2:エルメェスを利用する       3:自分がスタンド使いだと気付かれないようにする       4:『空条承太郎』『暗殺チーム』への警戒       5:荷物が重い 【エルメェス・コステロ】 [スタンド]:『キッス』 [時間軸]:スポーツ・マックスとの決着後、体調が回復した頃(脱獄前) [状態]:肉体・精神共に良好 [装備]:『ライフル』(エルメェスの支給アイテム) [道具]:胸部に隠していたドル紙幣、硬貨(極少数) [思考・状況]1:『スポーツ・マックス』に存分に罪を贖わせた後殺害する       2:それ以外の殺しはなるべくしない       3:『空条徐倫』『F・F』とできれば合流したい       4:ドッピオが足手まといにならないか心配

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